ちゃららのごくどう日記

土佐弁で、なまけ者とか、ぐうたらな人のことを「ごくどうもん」と言います。自由な土佐の山間から、田舎のおばちゃんが、あれこれ書いてみます。

うちの主人は、人相が悪い

f:id:kitagawayuzu:20180619223932j:plainうちの主人は、人見知りな性格である。

初対面の人に対して、自分からニコニコと話しかけることはあまりなく、愛想は良くない。第一印象は「怖そうな人」がほとんどで、かく言う私でさえ、主人と知り合った当初は「この人、何か怒っちゅうがやろか?」と思ったくらいだ。

当然、主人の友人達からも「人相が悪い」とか「悪人顔」などとよく言われるし、証明写真など撮ろうものなら「指名手配犯の写真みたいや」と必ず誰かに言われている。

何しろまず、髪型がいけない。

秀でた額を隠すことなく坊主にしているのだが、威圧感がハンパない。散髪は自分で。お風呂場でバリカンを使って散髪している。ただ、髪の毛の量が少ないもんだから、手間もお金もあんまりかからない。坊主にし始めたのは20年ほど前からで、本人は「ダウンタウンのまっちゃんが、俺の髪型を真似したがで」などと言っていた。

次に、目つき。

二重瞼で目も大きいのだが、ギロギロというか、ギョロリというか、つぶらな瞳とは正反対の目つきをしている。寝不足した日などは、かすかに血走っていたりして、うっかり目が合った人の中には、「今、睨まれた?」と誤解している人も少なからずいることだろう。緊張させてごめんねと、主人の代わりに謝りたい。

そして、無精髭。

人見知りに加え、面倒くさがりな性格の主人は、マメに髭を剃ることをしない。還暦も過ぎ、さすがに白髪の割合が増えたが、頭髪に比べると、髭のほうは若かりし頃と遜色ないほどよく生えている。頭髪に、なぜこの毛髪力が現れないのか?私にはそれが不思議でならないのだが、おそらくそれは、神様が主人に与えた試練であろう。

そんなわけで、要するに、坊主で髭ヅラ。ヤクザ映画に出ている悪役商会の俳優さんみたいなルックスなのだ。人相が悪いと言われても、まあ、文句は言えまい。

 

そんな、ただでさえ人相の悪い主人なのだが、サラリーマン時代は、さらに輪をかけた仏頂面で帰ってくることがよくあった。

「お帰りー」と声をかけても、返事はない。ぶすっとした表情で、まるで何かに怒っているようなその態度は、「俺の後ろに立つな!」とか言い出しかねない気配すら漂っていた。もちろん、そんなことは一度や二度ではなかったから、「あー、また仕事でなんかあったがやな……」と、すぐに察しはつく。触らぬ神に祟りなし。そっとしておこうってな調子で、私のほうも特に何も言わなかったのだが、私が何か悪いことをしたわけでもないのに、自分が怒られているような嫌な気分になったのも事実で、そんな日は当然、ろくに会話もしなかった。

そして、怒って帰って来た日から数日後になって、ようやく、晩酌をしながら、ぽつぽつと何があったのかを話し始めるのがいつものパターン。話し終えた後は、必ずと言っていいほどため息をつく。もしかしたら、怒って帰って来た日は、口を開くと私に八つ当たりしそうだからと、無理して黙っていたのかもしれない。

 

「なあ、俺が仕事辞めて、親父の後継いで農業するって言うたら、オマエ、どうする?」

主人が、そう訊いてきたのは、いつものように晩酌をしている時だった。その頃の主人は、休日にもトラブルで呼び出されたりすることがよくあり、疲れた表情で帰ってくることが増えていた。だから私のほうも、いつか「辞めたい」と言い出すのではないかと、ある程度予想というか、覚悟をしていたから、驚くこともなかったように思う。

「どうするって、何よ?仕事辞めんとってって、私に止めて欲しいが?止めて欲しいがやったら、止めちゃうで?」

「い、いや、冗談と違うき。俺は、酔うてこんなこと言いゆう訳やないがぞ?真剣に言いゆうがぞ!」

声を荒げそうになる主人に、

「そんなん、わかっちゅうし」

私が、笑って答えると、

「わ、わかっちゅうって……」

言いかけた主人が口ごもった。

「もう、お父さん(主人)の気持ちは、決まっちゅうがやろ?そんなら、それでえいやんか。仕事、辞めたいがやろ?辞めてもかまんき」

と、多少の脚色はしているが、まあ、概ねこんな会話をしたように思う。我ながら、ちょっと良いこと言うたやん!などと、その時はちょっぴり思ったりもしたのだった。

 

そう、ここまでなら「いい話やね~」で済んだのだ。

 

しかし、この数日後、主人は私の怒りを買う羽目になる。

なぜなら主人は、私に話をするよりも先に、義父さんに、仕事を辞める相談をしていたのだ。しかも「辞めようかどうしようか悩んでいる」なんていう可愛らしいお悩み相談ではなく、「仕事を辞めて農業を継ぐ」ときっぱり断言していたのである。

それ、相談と違うやろ。辞めるっていう報告やろが!

当然、その事実を、義父さんの口から聞いた私は、腹の虫が治まらない。主人が仕事を辞めたら、一番に影響が出るのは私と子供たちである。それなのに、私を後回しにして、義父さんに辞めます宣言って、アンタ、順番が違うろがっ!

「ちょっと、私より先に義父さんに相談したって、どういうつもりなが?こういう大事なことは、まずまっ先に私に相談するがが筋というもんやろ?」

怒りにまかせて詰め寄る私に、

「い、いや、辞める言うたら怒られそうな気がして、言い出しにくかって……」

と、しどろもどろに言い訳をする主人。この時ばかりは悪人顔も迫力はない。

もうっ!腹立つわ!汁が出るまで絞っちゃろかっ!と、思ったりもしたのだが、言い出しにくかった主人の気持ちも、わからないでもない。

腹は立ったが、まあ、今回はこれぐらいにしちょいちゃろか……。

「次からはちゃんと、私に一番に言いよ」

そう言って、その場は私も怒りを収めた。

 ただし、これでも高知のハチキンである。舐めたらいかんぜよ!

「今度同じことしたら、許さんで!」

以来、主人は私のことを「社長」とか「親分」などと呼ぶようになった。

当然だが、主人の言葉からは、敬意のかけらも感じられない(笑)。