ちゃららのごくどう日記

土佐弁で、なまけ者とか、ぐうたらな人のことを「ごくどうもん」と言います。自由な土佐の山間から、田舎のおばちゃんが、あれこれ書いてみます。

綺麗な柚子には棘がある

柚子農家の繁忙期は、紅葉よりも早く始まる。

柚子の実が黄色く色付き始めるのは、だいたい、10月の初め頃から。日当りの差や、樹勢の差なのだろうか。根っこは同じ一本の木なのに、実ごとに色付き具合が全く違っていて、枝の上で揺れる実は真っ青いのに、葉陰に隠れた実は、程よく色付いていたりするから不思議だ。

これは香酸柑橘類の特徴らしく、日当たりが良すぎると、実が色付くのも遅くなる。柚子の実は、スダチやカボスと同じように初めは青い。スダチやカボスも、熟すと黄色くなるのだが、意外と知らない人も多くて、去年、柚子の取材でうちに来た新聞記者さんも、「青い柚子があるんですか?これって、品種が違うんですか?」てなことを訊いてきた。
みんな、意外と柚子のことを知らんがやね。
と、言うわけで、今回は柚子の話です。

 

我が家は柚子の専業農家である。

収穫は一個ずつ手摘みで。千本ほどある全ての木から収穫し終わるのは12月半ば頃だろうか。

と、ここで断っておくが、農業は自営業である。栽培方法や栽培面積、収穫の仕方などは農家によって全く違う。これは、あくまでも、うちの場合の話なので、誤解のないようお願いしたい。

さて。 

うちの場合、収穫作業を子供たちや親戚が手伝いに来てくれる日もあるが、常時雇っている人はいない。繁忙期の2か月間、私は主人と二人、毎日仲良く、柚子の収穫をするのだな。

 「夫婦で収穫、仲がいいねー」

と、誰かに言われたら、

「だって、喧嘩したら仕事がやりにくいやろ。それに、吊り橋効果的なもんやと思うがやけど、柚子がいっぱい入ったコンテナを持ってくれたりしたら、なんか、頼もしいヤツに思えてくるがって」

と、白々しく嘯いてやろうと密かに練習しているのだが、残念なことに誰からもそんなことを言われない。たぶん、田舎で農業をする夫婦はみんな、傍目には仲良さそうに見えるのだろう。

確かに、先輩農業女子のSさんご夫婦も、とっても仲良さそうに見える。

みんな、それなりに、たまには喧嘩もするだろうし、腹の立つ日もあるはずだ。まっ、そんな話はまたの機会に。

 

ところで、皆さんは、柚子農家が栽培する柚子に、青果用と搾汁用のふた通りがあるのをご存じだろうか?

青果出荷というのは、柚子をそのまま流通に乗せる出荷方法のことだ。10個前後の柚子を化粧箱に詰め、築地や大田などあちこちの市場へと送り、競りで高値が付くのを期待するのが青果用柚子。キズが少なく綺麗な実を選別して出荷するのだが、この選別作業が結構大変だったりする。

で、選別の過程ではじかれた、キズが付いていたり、実が大き過ぎたり、小さかったりという、規格外品が、搾汁用の柚子になる。キロ単価は平均で青果用柚子の10分の1~2程と安く、うちで収穫する柚子の八割は、この、搾汁用柚子だ。何しろ、柚子は、傷がつきやすい。だから、JAに出荷したら、その日のうちに加工場で搾られて、あ~ら不思議、JA印の柚子100%ジュースに変身するのだ。まあ、びっくり。やがて、この柚子の果汁は、JA経由で大手食品メーカーにお嫁に行ったりするから、育ての親はさらにびっくり。

高知では、この柚子100%ジュースに防腐剤代わりの塩を10%ほど加えたものを、柚子酢、土佐弁で「ゆのす」と言い、だいたいどこの家庭も一升瓶入りの柚子酢をストックしている。そして年間を通して、これを料理に使うのが高知の田舎では一般的。

つまり、高知では、柚子と言えば、この「ゆのす」を指すことが多い。

そして「ゆのす」は醤油と同じ、調味料のひとつなのである。

高知の田舎では、昔から、ガラス製の醤油差しに入った「ゆのす」が食卓の隅に並んでいた。私も、焼き魚やちりめんじゃこ、焼きナスにも「ゆのす」をかけて食べるし、インスタントラーメンや、味噌汁にだってポチポチっと「ゆのす」を垂らして食べている。

そして、これが、うまいのだよ!

柚子サイコー!声を大にして叫びたいと、私はいつも思っている。

 

しかし、そんな、高知県民にとって欠かせない柚子が、他県の方にとっては、それほどでもないらしいと知った時には、正直、驚いた。

えっ?柚子の食べ方、知らんが?なんて、もったいない……。こんなに美味しいのに、これを味わえんなんて、みんな損しちゅう!

 

だいたい、他県の皆さんが柚子を買うのは、せいぜいで年に数回だろう。冬至頃に「お鍋に入れてみるのもいいかな」と、イベント的ノリで購入したものの、最後まで使いきれずに無駄にしてしまった、なんて話もたまに聞くし、柚子酢に至っては、「買ったことない」「そんなんあるの?」って感じかもしれない。

柚子農家としては、そこがちょっと、いや、かなり、残念なところだ。

確かに、最近は柚子ポン酢や、柚子風味のお菓子なども沢山出回っているし、柚子を使った料理を提供しているレストランなども昔に比べて増えてきたから、柚子を一度も食べたことがないって人は、さすがにいないかもしれない。しかし、キャベツやレタスのように年中出回っている野菜ではないし、一番安く手に入る冬至の頃でも、スーパーで三個百円くらいはするのだから、決して安くもない。柚子酢にしてもアンテナショップなどで売られてはいるのだが、全国どこでも手に入るというようなお手軽さも、お手頃さも、きっとない。
他県の方にとって、お米はないと困る食材だが、柚子は、なくても困らない食材で、使い慣れていない食材なのだな。たぶん、きっと……。

柚子は高知を代表する特産品のひとつ。その生産量は高知県がぶっちぎりで日本一。そして、その高知の中でも、私が住んでいる地域は柚子の栽培が盛んな土地だ。

なので、迷惑承知で言わせてもいらいます。

他県のみんな、高知柚子、マジサイコー、柚子を食べなきゃもったいないき!

 

……と、少々前置きが長くなった。しかも支離滅裂な感じがするが、まあ、いいか。

ぼちぼち本題に入ろう。

 

今回は、柚子の木に鋭い棘があるということを皆さんに伝えたくって、ブログを書き始めたのだが、冒頭から脱線してしまった。すみません。

ここまで読んでいただいたなら、当初の目的は70%くらい達成しているような気がするので、あと少しだけ、お付き合い願います。

この、柚子の棘は、バラの花のような可愛らしい棘とは違い、まるで、布団針のような形をしていて、長いものは5センチ強。枝や幹からまんべんなく生えていて……と、私の拙い文章で説明するより、写真を見てもらったほうがわかりやすいだろう。

ジャーン! ご覧あれ。これが、柚子の木です!
 
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写真中央の青い柚子の実は、ハウス栽培の柚子で、直径は4センチほど。この、枝から四方八方に突き出て、先っちょがちょっとオレンジ色をしたやつが件の棘である。写真の柚子の木は、棘の状態がわかりやすいように幼木を撮影したもので、実際に収穫作業をする露地柚子の成木はこちら。
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この写真のように枝が重なり合って茂っている。
先にも述べたが、青果用の柚子は傷がつきやすく、高枝鋏のような物を使用して間接的に収穫すると実に傷がつくので、一個一個手摘みが基本。だから、こんな棘だらけの茂みの奥に実った柚子は、腕を突っ込んで収穫するより他に方法がない。当然だが、素手で挑めば棘が刺さって、痛いことこの上なしだ。なので、棘が刺さらないよう、ホームセンターなどで売られている皮手袋や革製アームカバーなどを使用して収穫作業をする。しかし、中には厚い皮すら突き抜けて刺さる手強い棘もあるし、二の腕や足にも、容赦なく棘は刺さる。当然だが、痛い。棘が引っ掛かって服が破れることもしょっちゅうだし、棘が柚子の実を傷つけることもある。皮手袋だってワンシーズンも使えばボロボロ。知り合いの先輩農業女子のSさんは、脚立(三脚の六尺梯子)に登って収穫中にバランスを崩し、柚子の茂みにダイブしたことがあるそうで、二の腕にマスクメロンのような傷ができたと笑って話してくれた。
いや、笑い事やないき。
それ、大仁田厚の有刺鉄線プロレスと同じやん。
おかげで私はいつも、梯子に登って収穫作業をするときには、笑えないくらいのへっぴり腰で作業をしている。
柚子農家とは、ことほど左様に、痛くて危険な家業なのだった。