ちゃららのごくどう日記

土佐弁で、なまけ者とか、ぐうたらな人のことを「ごくどうもん」と言います。自由な土佐の山間から、田舎のおばちゃんが、あれこれ書いてみます。

おんちゃん達の山遊び

f:id:kitagawayuzu:20180630151636j:plain前回に引き続き、おんちゃん達の話をもうちょっとしたいと思う。

 

私の周りのおんちゃん達は、冬場になると山遊びに興じる。

もちろん、お弁当を持って、お山でハイキング……ではない。鉄砲(猟銃のことを、おんちゃん達は、鉄砲と言います)を担ぎ、猟友会のオレンジ色のベストを着け、猟犬を引き連れて、一日中、猪や鹿を追いかけ回す「狩猟」という遊びに熱中するのだ。

狩猟解禁日には仕事なんかしていられない。早朝に集合して、みんなで山へ分け入り、猪や鹿の足跡を慎重に探し、作戦を立て、それぞれが獲物の出そうなポジションに着き、GPSと無線機能がついた首輪を嵌めた猟犬を山に放つ。そして、おんちゃん達は無線機(トランシーバー)と、タブレットスマホを片手に雑談しながら、獲物の出現を待つのである。

やがて、猪を見つけた犬が吠えはじめ、犬の首輪に付いている無線から、トランシーバーに「ワンワン!……ブヒッ!」という鳴き声が入いったら、おんちゃん達のテンションは急上昇。

「おいっ、猪がおったぞ」

「どこな?」

60歳を過ぎたおんちゃん猟師が、タブレットを使いこなしGPSで素早く場所を確認するから、ある意味凄い。

「おーい、そっちに行くぞ」

そして、連絡は、トランシーバー。

「よっしゃ、了解」

「行ったぞ、撃てぇ!」

ズドーンッ!(猟銃の発射音)

「やったか?」

「あーっ、いかーん。すまん、当たらんかった」

「おおのっ!へったくそやにゃぁ!おんしゃ、鉄砲の先が曲がっちゅうろが(笑)」

「あーっはは」

「そっちに逃げたで」

「よっしゃ、まかいちょけ」

と、スラスラ書いたが、これはあくまで、私の想像である。何しろ、私は狩猟現場に同行したことなどないから、この目で見た訳ではない。でも、まあ、おんちゃん達の話からイメージするに、だいたいこんな感じだろう。

当然、その日の終わりに、みんなで酒宴を催すのは高知県民のお約束で、獲物を仕留めたおんちゃんは、唾を散らして、今日の活躍を自慢するのだ。楽しい一日は、楽しいお酒で締めくくるのがおんちゃん達のいいところ。

高知県東部では、この遊びを「追い山」と言うのだった。

 

ここまで読んで、自然相手のアクティビティーはいいよねー、お金もかからないしー、などとのんびり思われるかも知れない。しかし、それは、大きな勘違いで、実はこの遊び、意外とお金がかかるのだ。

まず、猟銃が安くても15万円くらいはするし、銃砲所持許可申請とか講習とか色々含めると、猟銃を所持するまでに30万円近くかかる。さらに、狩猟免許や狩猟者登録にかかる狩猟税とか、毎年3~4万円くらいの更新費用が必要で、銃に取り付ける照準器(スコープ?)や装弾(銃の玉)の代金、GPS付きの猟犬用首輪など、色んな小道具の代金なども合わせると、結構な金額になる。新しい、性能の良い銃が欲しいだなんて言おうものなら、夫婦喧嘩のタネになるところだ。幸い、今のところ主人はそんなことを言わない。だって、すでに二本目の銃を買っている。これ以上欲しいだなんて、当分は言わないだろう。

それはさておき。

 

そんな山遊びが大好きなおんちゃん達。なんと、最近は、みんなで県外遠征に出掛けるようになった。遠征を始めた細かな経緯は知らないが、

「おい、知っちゅうか?瀬戸内の何とかいう島に、ざまな太っとい猪が、どっさりおる言うぞ」

「ほんまか?そりゃ、いっぺん行ってみにゃぁいかんなぁ」

とまあ、だいだいこんなとこだろう。

その瀬戸内の何とかという島で空き家を一軒、年契約で借り(家賃は電気代込みで月一万円らしい)、猟期になると、軽トラックの荷台に猟犬を乗せ、夜の高速道路を走り、朝イチのフェーリーで島に渡る。そして、二~三日、泊りがけで狩猟をして帰ってくるという追い山ツアーを、年に4~5回はやるのだから、頭がおかしいとしか言いようがない。

例えば、捕まえた猪の肉を精肉店に卸しているとか、商売にしているのなら、わからなくもない。人から頼まれて、肉を売ったりするおんちゃんも何人かはいるし、商売ならば、県外遠征もありだろう。しかし、高知のおんちゃん連中は、遊びなのだ。 あ・そ・び!

県外で狩猟をするには、その都道府県ごとに狩猟者登録をする必要がある(もちろん、登録費用がかかります)。他にも、ツアー中の猟犬の餌だとか、水だとか、布団だとか、道具だとか、用意する物を考えただけでもうんざりするのに、おんちゃん連中はそんな手間などもろともしない。

遊ぶことへの情熱。もう、この一言に尽きるのだな。

もちろん、うちの主人も、数年前からこのツアーに参加している。当然だが、遊んでいる間、仕事は私に押し付けて「ちょっと、行ってくるき」なのだ。きっと、自分だけ遊んでいるという良心の呵責に耐え切れなかったのだろう。

「島にはね、温泉もあるがって。のんびりできるえい所やき、お母さん(私のこと)も、いっぺん連れて行っちゃおか?」

なんてことを言ってくれた。

いや、主人には悪いが、そんなツアーは結構です。

お留守番で、私は満足。