主人はご機嫌ななめ
先日、買い物から帰って来た時のことである。
リビングのパソコンでYouTubeを見ていた主人が、私のほうを振り返りもせず、背中越しに
「お前に、ちっと、金をもらわんといかん」
と、とても不満げに呟いた。
えっ?なんのこと?ネットで、また、何か買いたいものでも見つけたがぁ?
一瞬、そう思ったのだが、それにしては、どうも態度がおかしい。主人の横顔を盗み見ても、いつもと様子がなんとなく違うし、私に背中を向けたまま、わざとむすっとしている……ように思える。
『まるで、怒っちゅうみたいな態度やん。私、なんか怒らせるようなことしたかな?』
訳が分からず、黙って様子をうかがっていると、やがて、主人が口を尖らせて
「出演料や! ったく、俺の知らんところで、俺のことを勝手にブログに書きやがって!」
と、不満を口にした。
あらら、読んじゃったのね(笑)。なーんだ。そんなことか。
誤解のないよう断っておくが、私は、ブログを書いていることを、主人に秘密にしていたわけではない。読まれて困るようなことも書いていないし、むしろ、主人にも読ませたいと密かに思っていたくらいだ。なので、主人がブログを読んだのなら、好都合。「上手に書けちゅうろ?」と笑って答えて、丸く収まると思っていた。
が……。
なぜか主人は、私の意に反して「嘘を書いたらいかんろが!」と、文句を言うではないか。
はぁ?
「えーっ、嘘なんて書いてないやん!」
思わず、そう反論すると、主人は、
と、少々ご機嫌ななめな様子。いやいや、アナタね、誰がどう見ても、人相悪いです。そろそろ、自覚しましょうね。
「でも、読んだ人から、素敵なご主人さんですねとか、コメントも貰ったで」
主人の怒りなんぞどこ吹く風とばかりに笑って受け流すと、
「どこが上手に書けちゅうな、いかん、いかん!こんなん、書き直せ!」
と、声を荒げて答える主人。
「なんで?怒ちゅうが?」
そう訊くと、間髪入れず、
「ふんっ!この程度のことで怒りよったら、お前の旦那はつとまらん!」
と、主人がしれっと答えた。
口では怒っているが、顔が笑っているようなので、どうやら、問題はないだろう(笑)。まったく、面倒くさいヤツである。
さて。
そんな主人から、ブログの内容について、二か所ほど「ダメだし」が入った。ブログを書くのはいいが、どうしても補足説明して欲しいと言ってきかないのだ。
一つ目は、おんちゃん達の鰻バーベキューについて。
そもそも、鰻バーベキューは、おんちゃん達が、自分達だけの楽しみでやっているわけではない、と主人は言うのである。
地域のお年寄りや、日ごろお世話になっている人達にも鰻を食べてもらおうという趣旨のもと始めたことで、そこをちゃんと書いてもらわないと誤解を招くのだ、と。
主人曰く、田舎に溢れる豊かな自然は、そこに住む地域の人々、みんなのものだ。山も、川も、地域の人みんなで守っているし、みんなの支えがあるからこそ自然の恵みを得ることができる。しかし、独り暮らしの高齢者や、川漁が苦手な人は、どうだろう?同じ地域の仲間であるにもかかわらず、鰻や鮎を捕まえに行くことはできない。ならば、おんちゃん達が鰻や鮎を捕まえて、みんなに食べさせてやろうじゃないか。みんなと自然の恵みを分け合うことが、そこに住む者としての務めというものだ。と、文章にすると少々大げさな感じもするが、だいたいそんなことらしい。
確かに、先の鰻バーベキューには、地域のお年寄りや、新規就農したご夫婦に、日ごろお世話になっている役場や土木関係者などなど、多数招待されていて、大宴会だった。
それに、おんちゃん達はたまに「猟游会」という名前でボランティア活動などもしている。地域のイベントで、猪汁を作ってふるまったり、夏祭りで鹿肉を焼いて販売し、売り上げを社会福祉協議会に寄付したりもしている。しかし、そんな社会貢献活動でさえワイワイ言いながら楽しそうにやっているから、はた目には、遊んでいるみたいに見えるのだな。
「お前のブログやと、俺らが自分らの楽しみのためだけに、山や川で、放蕩の限りを尽くしゆうみたいに思えるやろ。けんど、俺らは、そうじゃない」
と、主人は言った。おんちゃん達は、自然の恵みを独り占めするような無粋なことはしない。恩恵は、みんなで分けあってこそ、初めてありがたいと言えるのだ。
さすがは、土佐のいごっそう!信念を貫く、高知のおんちゃん達なのであった。
で、もう一か所のダメ出しである。
「あと一つは、何?」
私が訊くと、主人はニヤリと笑って、
「捕まえた鰻が、全部で百匹やったことを、ちゃんと書いちょけ」
と、言った。
「えーっ、ほんまに百匹もおったがぁ?」
「おったよ!ほんまやき」
「なんか、あやしい。ていうか、その情報いる?」
「何を言うか!そこが一番大事なところやないか!ちゃんと書けェよ!」
そうなのだ。うちの主人は、言い出したらきかない。
「あー、はいはい、わかりました」
「はいは一回でえい!」
あー、はいはい。
面倒くさいヤツである。