ちゃららのごくどう日記

土佐弁で、なまけ者とか、ぐうたらな人のことを「ごくどうもん」と言います。自由な土佐の山間から、田舎のおばちゃんが、あれこれ書いてみます。

毎日新聞農業記録賞

去年の八月初旬のことである。
友人から誘われたバーベキューの飲み会で、高校教員をしているH先生にお目にかかった。
H先生は、息子が高校の時にお世話になった、アンジェラ・アキ似の美人先生で、明るく気さくな方である。友人のMさんと何やら話をしていたので、
「こんにちは。ご無沙汰しております」
と挨拶をしたところ、
「あー、そうや、ウエタさん(私の名前)、応募してみん?」
Mさんが私に話を振ってきた。
「えっ?何の話?」
「ウエタさん、毎日新聞の、毎日農業記録賞って、知っちゅう?」
「いや、知らん……」
そう。この時まで私は、毎日農業記録賞というものを、まったく知らなかったのである。

話を聞くと、毎日農業記録賞というのは、「農」や「食」、「農に関わる環境」への関心を高めるとともに、それに携わる人たち、これから携わろうとする人たちを応援する賞で、「農」「食」「農に関わる環境」に対する思いや体験、提言などをつづり、原稿用紙十枚程度にまとめて応募するという、どうやら、作文コンクールのようなものらしかった。
一般の部と、高校生の部があり、H先生は、高校生の部に応募する生徒の作文を添削指導しているらしく、
「締め切りが九月の頭やき、今月末までには仕上がるようにと思うたら、なかなかこれが大変ながですよ……」
と、少々苦笑い。
「でも、ウエタさん、応募してみませんか?何なら、添削指導もしますよ。一般の部は応募数も少ないし、それに、最優秀賞は賞金が30万円やし」
そう、H先生が言い、
「えっ?30万ですか!」
金額を聞いて、一瞬、心が動いた。しかし、締め切りまで一ケ月を切っている。たったひと月足らずで原稿用紙十枚ほどの文章をまとめるのは、ちと面倒くさい……かな?
「あー、考えてみます」
結局私は曖昧に答えて、その日は帰宅したのだった。

そして、その二日後、事態は急変するのである。

なんと私は、自分の不注意から接触事故を起こし、車を廃車にするという失敗をおかしてしまった。
信号のない交差点で、軽自動車同士の出合い頭の接触事故。不幸中の幸いは、双方、軽い打ち身程度で大した怪我はなく、過失割合もほぼ五分五分だったので、事故後の処理はそれほど揉めることもなかったのだが、主人からは、
「ったく!金もないに、新しい車を買わんといかんやろが!」
と、めちゃめちゃ怒られ、私は、塩をかけられたナメクジ状態。
反省しています。ごめんなさい……とは思うが、余計な出費は避けられない。弱ったなぁ、どうしよう、と思っている時、ふと私の脳裏に、H先生の言った「賞金30万円」という言葉が、一筋の光明のように浮かんできたのだ。
嗚呼!そうだ。この手があった!
もちろん、賞金30万円が貰えると楽観視した訳ではない。貰えたらいいなとは思ったが、たったひと月足らずで書いたものが30万円に化けるほどの文章力が、自分にないことは解かっている。
しかし、この、毎日農業記録賞、賞金がびっくりするほどの大盤振る舞いなのだ。
まず、一般の部。最優秀賞が6編。賞金、各、30万円。
優秀賞が10編。賞金、各、10万円。
奨励賞が1編。賞金5万円。
優良賞が、前年度は34編。賞金、各、1万円。
続いて高校生の部。優秀賞が10編。各奨学金10万円(高校生なので、ここは奨学金)。
奨励賞が2編。奨学金、各、5万円。
優良賞が40編。1万円分図書カード。
ざっと計算したしただけで、総額500万円弱。
こんだけ大盤振る舞いなら、優良賞の一万円ぐらいは、いけるかもしれない。
淡い期待を胸に抱き、その日から数日、晩酌をちょっとだけ控えて、私はパソコンに向かったのであった。

つまり、応募動機は、間違いなく賞金目当て。
不純な動機はしれっと隠して、書き上げた作文を、毎日新聞高知支局に送ったのは、ここだけの秘密である。

ただ、誤解しないで欲しい。きっかけというか、動機は確かに不純だったかもしれないが、作文に書いたことは、嘘ではない。日頃から、自分が農業に対して、あるいは食に対して思っていたことを自分なりの文章でつづったものであり、仕事の合間に、ひと月足らずで書いたにしては、上手く書けたし、自分で自分を褒めてあげたいと、思っている。

さて。それから数日が経ち、日々の仕事に忙殺され、毎日農業記録賞に応募したことなどすっかり忘れていた11月の中旬のことだった。一本の電話が、掛かってきたのである。
電話で、
「こんばんは。毎日新聞高知支局の〇〇と申します。ウエタさんですか?おめでとうございます。優秀賞を受賞されました。賞金10万円です!」
といった内容の連絡を、もうちょっと上品な言い方で説明されたと思うのだが、舞い上がってしまったのと、酔っぱらっていたのとで、細部まで、はっきりとは覚えていない。しかし、
「ありがとうございます、ありがとうございます」
と繰り返したのは、今でもはっきりと覚えている。

賞金が口座に振り込まれた翌日、主人と二人で、近所のイタリアンレストランで食事をした。さらに、年末に、いつもよりちょっと高いお肉と、ちょっと高いワインを買って家族で団欒し、さらに年明けに、いつもの倍はするお肉を買って、すき焼きをして新年を祝い、賞金は、あっという間に、ぱぁーっと使ってなくなった。
これは、高知県民的、正しい臨時収入の使い方だと、私は思っている。

それもこれも、毎日新聞社様のおかげでございます。
毎日新聞社様。大変、美味しゅうございました。ありがとうございます。